朝の心地よい風を切ってサイゴン市内にあるレストランへと来ている。
もちろん僕がいい店など知るわけもなく、
彼女の思うがままに着いて行くしかないのであるが。
.....レストラン、タン、ニエン?
店の中は、現地の家族連れなどで結構賑やかである。
こんなに繁盛してるってことはきっとおいしい店なんだろうなぁ・・・
彼女はというとメニューも見ずにウエイターに注文を決めていた。
「Anything to drink ?」(何、飲む?)
.....ン〜.....セ、セブンアップ!
隣のテーブルの7upの缶が目に入った。
「This is a nice restaurant」(ここは、良い食堂なの)
彼女は僕を見つめてそう言った。
彼女のその言葉にうそはなかった。
すぐに運ばれてきた料理は、
日本でいうお粥のようなものだったが、
一口食べて・・・
....うまい。
「・・What's?」(・・なに?)
.....あ、ベリィ、デリッシャズ。
チャオ・ガーといって
お粥(かゆ)の上に鶏肉などの具がちりばめられている現地の定番メニューだ。
ただのお粥(かゆ)がこんなにもおいしい料理に化けるなんて・・
携帯電話で言うなら、予想外!
ただ、僕がうまそうに食べている様子を見ている彼女はとても満足そうな感じだ。
立場が逆だなぁ〜
僕は思った。
「オ・イ・シ・イ」彼女は、突然たどたどしい日本語で口を開いた。
.....ソ、ソウ、イエス、ジャパニーズ、オイシイ。
「・・・Vietnamese ngon !」(ベトナム語は、ゴン!)
....ゴ、ゴン?
「ハイ。」おいしいはベトナム語でゴンかぁ・・
工場長の言うとおりに
彼女とお友達になれば自然とベトナム語が身に付いてきそうだ。
.....オカユ、オイシイ。
僕は彼女に日本語で言って返してみた。
「オ、カ、ユシイ?」.....オカシイ?
確かに周りから見るとおかしい二人である。
食事を済ませた後、
再び彼女のバイクの後ろに乗ってサイゴン市内を走った。

サイゴン大教会から中央郵便局、そして市民劇場。
ホーチミン市内の観光名所を一般の観光客とは違った視野で見学しているのだ。
最初、周りの目線みたいなものを感じて恥ずかしかったのに、
いま、こうして快適な時間を彼女と楽しんでいるのである。
.....つぎはどこ行くの?...ネクスト、ウェア〜!
彼女はサイゴン市内から少し外れた細い路地へとバイクを走らせていた。
そこはいくつもの雑貨店や美容院が列をなして建っている。
その外には井戸端会議よろしくといったように、
ここの住民たちが路肩にたむろしていた。

そこへ、彼女はひとつの美容院の前でバイクを止めた。
.....ワット、ドゥイング?
「・・・・・goi dau va cat toc.・・・・・」(・・・・・シャンプーとカットね)
.............................はぁ?
どうやら僕の髪を切るらしい。
確かに伸びてはいるが・・・・・
.....ん?
彼女は僕の方を見ながら
なにやら美容院の店員と打ち合わせをしている。
その店員はせいぜい23,4ぐらいの女性だ。
そして、その店員に導かれるままに
僕はそこ(美容院)にある黒の大きなシートに座らせられた。
もう、どうにでもなれである。
何たって、彼女はというと僕の隣の席で髪をとかしているし、
店員は淡々と僕の髪を切り始めているからなのである。
「・・・・・dep, dep trai !!」デェップ・チャイ?....確かハンサムという意味だ。
ここの美容院のママさんが僕に話しかけてきた。
「・・become beautiful !」ベトナムも日本の美容院とそんなに変わらない。
口もうまいのである。
無論、髪を切る表情は真剣そのもので
もちろんカミソリだって安心して身を任せられたのはいうまでもない。
シャンプー後のホースから出る冷たい水の心地よさ、
フェイスマッサージ中の爽快感。
幼い時に母に連れてきてもらった床屋を思い出す。
こんなに気持ちよかったような・・
しかし、これだけやってもらっていくらになるんだろう?
最後のセット(髪の仕上げ)をしてもらってる間そんなことも考えていた。
「Good!」彼女が僕を見ながら言った。
「dep trai !」(ハンサムよ!)
美容院の店員も大きな鏡を持ってきて、
僕の頭の後ろから横にかけて鏡に写し出しながら言った。
.....う〜ん。
とりあえず、すっきりはしたのかな。
....ん?
彼女が美容院代を精算して払っていた。
.....ハゥ、マッチ?
僕は彼女に言った。
.....ハゥ、マッチ、.....ハゥ、マッチ!
ここの美容院代も先ほどのレストラン同様に、僕に払わせてくれ。
と、彼女に訴えながらの、.....ハゥ、マッチ!なのだ。
「・・・no need!」.....ノー、ノー!と、少し興奮したように僕は、財布を彼女の前につきだした。
日本だと、これだけのことをしてもらう美容院はえらい高いぞ!!
僕は彼女に20ドルを突き出すように渡した。
「・・・・・・!」その行為に彼女はおどろいていた。
「just a moment・・・・・」
彼女はそう言うと一人、店を出ていった。
......えっ。気を悪くした?
何か悪いことでもしたのかなぁ?
僕は、店員の方を助けを求める目をしながら見た。
店員は笑ってた。
何もかも知っている様子の店員が、
氷の入った冷たいコーラを持ってきてくれた。
.....どこへ行ったんだよ〜
しばらくすると彼女は手に荷物を持って戻ってきた。
......あ!!
その荷物はとてもカラフルな包装紙に包んである少し大きめのものだ。
......ん?
それを彼女は僕に渡しながら言った。
「キョウノ、オモイデ、タメノ・・プレゼント・・」..................。
彼女の精一杯の口からこぼれる日本語が僕の心を打つ。
僕が渡した20ドルで、
彼女は今日の記念となるプレゼントを買ってきたのである。
.....これ、僕に?
「ハイ。」..................。
僕は言葉が出なかった。
それは、彼女の持っているやさしさに触れた瞬間でもあった。
後に、今日の日のお金はお姉さんからもらったんだと聞かされた。